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評価:
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Magnolia
¥ 2,406
(2012-10-23)
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Steveがなくなってもいまだ影響力は消えていない。Steveの功績と同時によく聞かれるのは、彼の素行について。横暴な態度で相手を貶めたりしたエピソードはいくつか残っている。最初の子供を頑なに認知しなかったことも、彼の人間性の評価の判断材料となったりしている。
当事者だったひとは、彼の言動を要因として傷を負ったろうし、許せないでいる場合もあるだろう。いくら成功者だとしても、それはそれで仕方ない。世界を変革したからその犠牲者なのだ、みたいなフォローは必要ない。ひとりの人間として誰かにトラウマを残すべきではない。
とはいえ、人と人との関係性のあり方という論点は横に置いておくとして、マクロ視点において、やはり、彼の功績は大きい。そういう視点をもちつつ見てみると、一人だけではなしえなかったことだとも想像つく。想像できるので、なおさら、横暴なだけの人間が、なぜ人々をリードできたのか、なぜ、横暴なひとをフォローしたのか、とても知りたかった。
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特に、人の気持ちがわからなくて、誰かに動機づけ大きなビジョンに向かって引き連れていくことができるはずがない、という原点を踏まえると、逆に、Steveが人間としてなにを考えていたのか、知りたかった。
その「Steveの気持ち」が出ている生のインタビューを見ることができた。『The Lost Interview』。1995年にとあるITに関する特集の企画番組を作るにあたり、多くの対象者のひとりとして、Steveもインタビューを受けた。番組では当時は編集されほんの一部しか放映されなかった。その全体がほぼカットなしで(くしゃみするシーンも含め笑)残っている。
インタビューのなかで、彼は、フォロワーの自分に対する評価を明確に語っている。
製品開発で優先することを聞かれ、チームに期待することを答えている
「真に優秀なひとは、自分が優秀なことを知っている。だから褒める必要はない」
その代り「重要な助言」をしてあげなければならない。それは「十分な成果をあげていないときに指摘してあげること」だ。
しかし、それは簡単なことではなく、でも、Steveは「ストレートに伝えた」てきたのだという。
それが「自分と働いた優秀なひとたちは、それが有益だとわかるはずだ」で、でも「何人かは自分を憎んでいるだろう」とも言っている。
また、自分が意見を変えることについて、ほかのひとが知っていることも理解している。「私は間違う」、それでも、結果がただしければいいのだ、と。
そのほか、すばらしいアイディアが望んだ製品に変わっていく過程を、石を研ぐ話になぞらえて、
「とてつもなく優れているひとが集まって、ぶつかりあって、議論し、反発しあい、そうやってお互いを磨きあって、アイディアを磨き上げて美しい石を創造する」
と語っている。
つまり…彼は、独りよがりではなく、自分勝手なだけだったのである。Steveは、自分を恨むひとがいることやひととひとがぶつかり合うことがふつうではないことなど、それが多くのひとにとっては苦痛であることは分かっていたように聞こえる。それでも、Apple computerという「ビジョン」を達成するために、「自分勝手を貫いた」ように思えた。それは、多くの人には横暴で独りよがりで感情のないひとに写ったのかもしれない。
インタビューのなかで、あたまのよいSteveのことなので、その場で取り繕ったことばもあっただろう。それでも、明確でゆるぎない、心をもったひとりの人間なのだと伝わってきた。おもしろいビデオだ。